(ジャケットは別です)
小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラのドイツのメインロード曲集である。2つの交響曲全集について見ていくと、はじめにブラームス(1989~1992年)が、続いてベートーヴェン(1993~2002年)がシリーズで計画的に録音されている。そして、同時にバッハの大曲2曲が、ベートーヴェン収録と同時併行してなされ、最後にブルックナーの第7番(2003年)が取り上げられている。
ベートーヴェンを得意とした岩城宏之(1932~2006年)は、1988年アンサンブル金沢の設立に尽力し音楽監督に就任。一方、朝比奈隆(1908~2001年)の大阪フィルとの3度目のブルックナーの交響曲全集の収録が1992~95年であった。松本で、金沢で、大阪での多彩な意欲的な音楽シーンが展開されていた時代にあって、小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラの活動は参加メンバーをふくめグローバルな広がりをもっていた。
では、その演奏は。以下、代表盤の第九「合唱」について。志あるサイトウ・キネン・オーケストラの面々が2002年9月松本に結集し、同月、小澤征爾がウィーン国立歌劇場音楽監督に就任したお祝いをこめたライヴ盤。同メンバーが1993年から足掛け10年、行ってきたベートーヴェン・チクルスの掉尾を飾る演奏である。本演奏はけっして表面的な響きの美しさを追求するものではない。アンサンブルの完璧さを求めるアプローチとも異なり、むしろ伸び伸びとした大らかさこそ身上かもしれない。全体の中で第3楽章が特に出色。この情感の豊かさには素直に心が動く。地理的には日本の真ん中の地方都市で、日本人指揮者、多くが日本人の演奏家によるベートーヴェン。でもこの情感の豊かさと肌理こまやかさの魅力は世界にしかと届くだろうなと感じさせる。心で歌い全員が全員の音楽に耳を傾ける、その様子が手に取るようにわかる。終楽章も緊張感はあってもファナティックさとは無縁で、格調の高さこそ求められているように思う。合唱も天晴れである。
<収録情報>(録音年)
【J.S.バッハ】
・ミサ曲
ロ短調 BWV.232
バーバラ・ボニー(S)、アンゲリカ・キルヒシュラーガー(MS)、ジョン・マーク・エインズリー(T)、アラステア・ミルズ(Bs)、東京オペラシンガーズ他(2000年8~9月)
・マタイ受難曲 BWV.244
ジョン・マーク・エインズリー(T)、トーマス・クヴァストホフ(Bs-Br)、クリスティアーネ・ウルツェ(S)、ナタリー・シュトゥッツマン(A)、東京オペラシンガーズ他(1997年9月)
【ベートーヴェン】
・交響曲全集:第7番(1993)、第3番(1998)、第5番(1998)、第6番(1998)、第1番(1999)、第2番(2000)、第4番(2001)、第8番(2001)、第9番(2002)
・序曲集:「エグモント」序曲(1998)、「レオノーレ」序曲第2番 、第3番(1999)、第1番(2001)
【ブラームス】
・交響曲全集:第4番(1989)、第1番(1990)、第2番(1992)、第3番(1992)
・ハンガリー舞曲:第5番、第6番(1989)、第1番、第3番、第10番(1990)
【ブルックナー】
・交響曲第7番(2003)
➡ 小澤征爾の名演
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