木曜日, 10月 07, 2021

マーラー 交響曲第8番 名盤5点


 




ショルティのマーラーは構築力が際立つ。第8番でもその特質はいかんなく発揮されている。

ショルティ

ショルティ/シカゴ響の妙技、ウィーンで収録されたマーラー第8番 (amazon.co.jp)


マーラーの第8番は、ライヴでは巨大な視覚効果があるが、CDで緊張感を持続して聴かせるのは難しい曲である。譬えていえば、高い標高の、起伏こそ乏しいながら、狭く危険な山稜の長い尾根を行くようであり、細心の注意をもって走破するのは至難といった感がある。しかし、こうした曲ゆえにショルティの管弦楽の醍醐味を最大限引き出す技量のみせどころがあるとも言える。
ルチア・ポップ(S)、イヴォンヌ・ミントン(Ms)、マルッティ・タルヴェラ(Bs)に加えて、ルネ・コロ(T)ら巧手の独奏に加えて、ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン楽友協会合唱団、ウィーン少年合唱団の物量と統一感が素晴らしい。ワーグナーの『指輪』全曲をウィーンで収録してきたショルティとの厚い信頼感あればこそと思う。一方、持続力のある、よくコントロールされたシカゴ響の実力もたいしたもので、初期ブルックナー演奏で看取される構造力の弱い曲を見事に補正してしまうようなショルティのタクトが冴える。
1971年8月から9月にかけて、ウィーン・ゾフィエンザールでのセッション録音だが、ライヴと見紛うばかりの緊迫力がある。

➡  
People's Edition  にて聴取

★☆★☆★☆★☆

テンシュテットの第8番では、大仕立てな構えではなく、深い心理描写に特色がある。

テンシュテット

テンシュテット、第2部の深き心理的な描写 (amazon.co.jp)


「千人の交響曲」の名演。マーラーの書いた一種のカンタータともいわれる作品だが、ロンドンで活躍する粒ぞろいの歌手を集め、1986年に収録された。
但し、かねてより廉価盤全集  
Mahler: Complete Symphonies Klaus Tennstedt  があり、録音を気にしなければこちらがお得。また、1991年1月27日 ロンドン・フェスティヴァル・ホール  マーラー:交響曲 第8番 変ホ長調  などの別音源もある。

本曲は、そのタイトルにあるように巨大な演奏陣容を要することで、いかにもマーラーらしい激烈な楽曲と見なされがちであるが、ラテン語による古式の聖餐式のような第1部は、大規模宗教曲としてそうした傾向はあるものの、第2部はむしろ世俗的な色彩も強く全体としては落ち着いた基調である。特に各独唱と清浄なる合唱団(とりわけ少年合唱団の響き)や管弦楽との共鳴が独自の神秘的な音楽空間を創造している。

テンシュテットの演奏の特質は、この第2部の心理的な描写の深さにあるように思う。ゲーテ「ファウスト」第2部(一部)の音楽化は、ゲーテゆかりの東独出身のテンシュテットの志向にあっていたかも知れない。独奏者をふくめロンドン・フィル&同合唱団は、指揮者の指示にそって、極めて緩慢なテンポのなか、ときに明るく、ときに詠嘆的な深き表現ぶりに全力投入している。静謐なる、たゆたう音楽の背後には張りつめた緊張感ある。

<収録情報>
(S)エリザベス・コネル(ソプラノI:罪深き女)
(S)イーディス・ウィーンズ(ソプラノII:贖罪の女のひとり)
(S)フェリシティ・ロット(ソプラノIII:栄光の聖母)
(C)トゥルデリーゼ・シュミット(コントラルトI:サマリアの女)
(C)ナディーヌ・ドゥニーズ(コントラルトII:エジプトのマリア)、
(T)リチャード・ヴァーサル(テナー:マリアを讃える博士)
(Br)ヨルマ・ヒュンニネン(バリトン:法悦の神父)
(B) ハンス・ゾーティン(バス:瞑想の神父)

(Or)ディヴィッド・ヒル
ロンドン・フィル&同合唱団、ティフィン学校少年合唱団
[録音]1986年4月20-24日 ウォルサムストウ・タウン・ホール,ロンドン&1986年10月8-10日 ウェストミンスター・カセドラル,ロンドン

★☆★☆★☆★☆

ストコフスキーの先駆的な成果も忘れられない。

ストコフスキー

ストコフスキー 先駆的成果 (amazon.co.jp)


1950年代では日本でのマーラー受容はいまだ揺籃期であった。60年代でもマーラーの交響曲といえば1、2番と大地の歌くらいが聴かれていたにすぎない。その比較において、8番でストコフスキーが1950年に本盤を残していることは画期的であり、大いなる歴史的成果である。
なお、欧州では、シェルヘンが1951年6月にウィーン響を、ミトロプーロスが1960年8月にウィーン・フィルを振ったライヴもいまは手軽に入手可能である。

第1部「来れ、創造主なる聖霊よ」は敬虔な宗教曲を聴く雰囲気で、メインテーマたる神からの7つの贈物(septiformis munere:上智、聡明、賢慮、剛毅、知識、孝愛、畏敬)の伝達において、ストコフスキーの挙手を正したような古典的演奏スタイルには崇高な趣きがある。
第2部「ゲーテの『ファウスト 第二部』から最後の場」では、よりロマンティックな表現ぶりだが、瑞々しく生気に満ちた音楽が形成される。一方、大見得を切り、奇をてらうような部分は皆無、真摯かつ明快な良き演奏である。

録音はこの時代だから仕方がないにせよ、第二部の咳払いが気になるほか、児童合唱、ソロの籠った音、この曲ならではの管弦楽、合唱の饗宴の部分での割れた響きなど、音には飛び切り鋭敏なストコフスキーゆえに、やせたモノラル録音はなんとも惜しまれる。

【収録情報】
マーラー:交響曲第8番変ホ長調『千人の交響曲』 [77:52]

  フランシス・イーンドFrances Yeend(ソプラノ)
 ウタ・グラーフUta Graf(ソプラノ) 
 カミラ・ウイリアムズCamilla Williams(ソプラノ)
 マーサ・リプトンMartha Lipton(メゾ・ソプラノ)
 ユージン・コンリーEugene Conley(テノール)
 カーロス・アレグザンダーCarlos Alexander(バス)
 ジョージ・ロンドンGeorge London(バス)
 ウェストミンスター合唱団、他
 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
 レオポルド・ストコフスキー(指揮)

 録音時期:1950年4月6日
 録音場所:ニューヨーク、カーネギー・ホール
  録音方式:モノラル(ライヴ)

→  
GUSTAV MAHLER EDITION  にて聴取


小澤征爾

小澤征爾/マーラー:交響曲第8番≪千人の交響曲≫ (tower.jp)


バーンスタイン

レナード・バーンスタイン/マーラー: 交響曲第8番(1965年12月9日フィルハーモニックホール、ライヴ) (tower.jp)


👉 織工Ⅲ: 名盤5点 シリーズ (shokkou3.blogspot.com)


0 件のコメント: